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ビジネスホテル1泊3万円は本当に日本の常識?インバウンドに「日本はボッタクリ」と言われないために

ビジネスホテル1泊3万円は本当に日本の常識?インバウンドに「日本はボッタクリ」と言われないために

外国人の豪遊ぶりがクローズアップされるようになり、日本人の金銭感覚からかけ離れた金額の食べ物やホテル価格の上昇が物議を醸しています。二重価格も取り沙汰される中、我々は今後どのように振る舞うべきなのでしょうか。

いよいよ今後本格的にコロナ明けを迎えるに当たり、日本へ来航するインバウンド観光客の数が目覚ましいほど復活しています。

日本の春と秋は来訪する外国人にとってベストシーズンであるため、メディアでも先般のGWの頃は、インバウンド関連のニュースが目白押しだったのは記憶に新しいところです(本来外国人に日本のGWは関係なく、むしろ日本人旅行客が多くて避けるべき時期ですが)。

円が安値を更新し続ける今、これから迎える夏休みや秋の行楽シーズンにも同じような光景やニュースが待っていると思うのですが、昨今非常に気になっているのが、「ビジネスホテル1泊3万円!」や「1万5000円の海鮮丼!」といった、「インバウンドはリッチで金に糸目を付けない」、さらには「外国人にはこれが当たり前の価格!」という誤った認識が広まりかねない内容のものです。

はたして本当に外国人は皆(ではないにしても大方)、このような金銭感覚で日本を旅行しているのでしょうか。業務で外国人観光客の案内をし、中長期的な日本の観光立国、インバウンド発展を支持する立場から、筆者はこのような誤解と風潮に警鐘を鳴らしたいと考えています。

話題のインバウン丼

巷(ちまた)では、非常に高額な海鮮丼などに対して「インバウン丼」などという言葉も生まれました。ネットやテレビで流れるお決まりのインタビューはこんな感じでしょうか。

≪魚市場で≫
インタビュアー:「何を食べましたか?」
中国人観光客:「海鮮丼です」
インタビュアー「いくらでしたか?」
中国人観光客:「1万5000円です」
インタビュアー:「高いと思いますか?」
中国人観光客:「いいえ、そうは感じませんでした。今回の旅行は特に予算はありませんので」

まず認識しておかなくてはならないのは、このようなインタビューは築地や豊洲のような「特異点」で超富裕層という特異な人たちに対して行われているということ。

すべての外国人観光客がこのようなインバウン丼を安い安いと食べているわけではありません。

今年(2024年)オープンした豊洲の「千客万来」。観光客向けの多彩な飲食店と温泉施設が入る
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さらに、このような特異点においても1万円を超える海鮮丼などはそうそうなく(5000円のラーメンや和牛串なども然り)、極めて特異なスペシャルメニューだということ。

確かにこういったスポットの飲食店の価格は一般的な海鮮レストランよりは割高だと感じますが、それでも海鮮丼の平均的な価格帯は3000円から4000円といったところでしょうか。

6000~7000円の上級メニューはそこそこ目にしますが、1万円を超えるものとなるとめったにありません。

≪つづいて空港で≫
インタビュアー:「どこからいらっしゃいましたか?」
米国人観光客:「アメリカです」
インタビュアー「ホテルはいくらでしたか?」
米国人観光客:「1泊6万円です」
インタビュアー:「高いと思いますか?」
米国人観光客:「いいえ、特にそうは感じませんでした。アメリカに比べると、日本は安いです」

この人の言葉、そして取材には確かにウソはないと思います。ただし高いかどうかというのは人それぞれの主観であり、長い休暇をとって日本に観光旅行に来ている時点で少なくとも低所得層ではないはずです。

そしておそらく取材班は、このようなインタビュー、絵を撮りたくて狙いを見定め、それに成功したものをオンエアしているでしょう。

報道にはインパクトが必要な側面もありますから、これはもう安易なメディア悪論みたいなものではなく、報道(特にテレビ番組)とはそういう性向(まさに、クローズアップです)のものなのだと、視聴者がリテラシーを持って視聴するしかありません。

こういったニュースを見て、「アメリカ人は1泊6万円が普通」と思い込んで、じゃあといって東京に1泊3万円の普通のビジネスホテルが増えてしまうのが筆者の懸念していることです。

高騰する東京の宿泊費

現状、東京のビジネスホテルはコロナ前の2~3倍の価格で販売しているところがたくさんあります。雑感ですが、以前は5000円だったところが今は1万円~1万5000円くらいで多く販売されている感じでしょうか。

今東京で中の下くらいのビジネスホテルに泊まるお金があれば、地方では温泉旅館に1泊2食で泊まれます。入り放題の露天風呂と会席料理付きです。

確かにホテルや旅館などの宿泊施設の料金は実質的に“時価”であるため、ピークに価格を上げて売上の最大化を図り、オフシーズンに価格を下げて集客を促すことは悪いことではありません。

ビジネスホテルも1泊数万円の時代に? 夜寝て朝起きればお財布が寂しいことに……
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しかし、それも程度問題です。インバウンドを指向するなら、ホテルの価格は国際比較されて当然であり、東京のいわゆる「ビジネス」程度の施設が1泊3万円も取ったら、「東京は宿泊費が高い!」と世界のSNSでネガティブなコメントが増えるのは目に見えています。

外国人にとっては、「東京の宿泊費が高い」イコール「日本は宿泊費が高い」という印象になってしまいます。

香港やシンガポールのような土地面積の限られている場所ならばある程度の理解は得られるにしても、日本はさすがにそうはいきませんので、中長期的には外国人が日本旅行を敬遠するようになるでしょう。

アメリカ人にとって1泊6万円は普通!?

では一例として、普通のアメリカ人が日々利用しているホテルはどんな感じなのかを見てみましょう。

アメリカ人にとっての宿泊施設のランク付けを考えた場合、日本人にとっての「ビジネスホテル」の感覚に近い存在といえるのが「Motel」ではないでしょうか。

アメリカの大手チェーンのモーテルは施設も近代的
アメリカの大手チェーンのモーテルは施設も近代的


アメリカを車で流していれば、普通に何度も見かけるような大手チェーンのモーテル(星の目安として2ツ星から3ツ星)がたくさんあります。

それらのHPを見てみれば、どのくらいの価格でどの程度の施設に泊まれるのかがよく分かります。あるいは、Booking.comなどの大手宿泊予約サイトで見ても構いません。

さすがにNYマンハッタンのど真ん中になれば話は違うと思いますが、アトランタでもヒューストンでもロサンゼルスでも、この記録的円安(1ドル約160円、執筆時点)の最中であれど、探してみれば1室1万円台前半の予算(70ドルから100ドル程度)で泊まれるところはいくらでも見つかることが分かります。

1万円を切るようなところもなくはありません。

さらに言えば、仮に2人で泊まれば1人当たりは半額で数千円、しかもこういう大手チェーン(に限らず)のモーテルは、日本のいわゆるビジネスホテルよりずっと広くて快適です……。

部屋の前に車を止められる昔ながらのモーテルも健在。疲れたらハンドルをフラッと右に切ればすぐ入室可能
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普段こういうところに泊まっているアメリカ人に対して、日本の普通のビジネスが3万円も請求したら、おもてなしとか何とか言ったところで手痛い評価を受けることは火を見るよりも明らかでしょう。

インバウン丼の何が問題か

インバウン丼についても同じようなことが言えるのではないでしょうか。

海鮮丼は比較の対象がほぼないため比べるのが難しいですが、舌の肥えた現地の日本人に支持されていない価格帯のものを、「仕入れ価格や輸送費がかかるからこの価格で」と言ってもやはり説得力に乏しいでしょう。

「じゃあなぜインバウンド隆盛前は、そういう価格の海鮮丼がなかったのか?」という疑問も湧きます。かつてのバブル期の日本人なら、十分手の届く価格だったはずです。

またインバウン丼に舌鼓を打つ外国人観光客が、どこまでその真価を知りながら食べているのかは正直疑問もあります。

その証左として、それらのメニューに記載されている外国語の説明は大抵ほんの1~2行程度であり、OTORO(大トロ)、~~DON(丼)といった「説明になっていない説明」も相変わらず健在です。

これで外国人がその価値を理解して食していると言うのはさすがに無理があるでしょう。

買いたい人にできるだけ高い値段で売るのは商売の基本中の基本なので、1万5000円の海鮮丼を食べたい人に売って何が悪いのか、というよく聞かれる強弁はその点では正しいと思います。

ただし一方で、商売には近江商人の「三方良し」の考え方が昔からあり、売り手と買い手は当然として、さらに「世間」を含めた三者すべてが満足できるのが良い商売ということです。

その点、1万5000円のインバウン丼は三者のメリットのバランスをやや欠いている可能性が高いと言わざるを得ません。

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あなたがパリに行って、パリジャンやパリジェンヌは誰も食べようとしない5000円の豪華サンドイッチ(もしあるとすれば)を買って、SNSに写真を上げる瞬間は確かに何となく気分が良いでしょう。

でも帰国後ふと我に返って、「やっぱりフランスのあれ高くない?」と思い至って友達に話し、その友達が「やっぱりフランス行くのやめておこうかな」となってしまったら、それは三方良しではありません。

お金持ちなんだからその程度の金額なんて気にしないだろうと思ったら大間違い。お金持ちほどそういう感覚はシビアです。だからお金持ちなんです。

また円安を理由に高値を正当化するのも考えものです。

そもそも日本人客は眼中にないと言っているようなものですし、今は円安といっても、円高とも円安とも言われない程度のレートから比べてせいぜい(といって良いかは微妙ですが)40~50%の範囲の円安です。

100%や200%の通貨安が起こることは、世界では珍しくはないでしょう。億を超える不動産の買い物には響くでしょうが、日本へ海外旅行に来るほどの人の一回の食事代としてならそこまでの影響はないはずです。

本当に価値のあるものを特別メニューとして相当の価格で提供することは、むしろ好ましいことと思います。しかし本当にそうなのかと疑問の余地がありそうなくらい、多くの人がモヤモヤしているのは三方良しにはなっていないからでしょう。

そして一番の問題は、ニュースなどでその価格が独り歩きして誤解を伴って日本中に伝播し、インバウンドからはいくらでも取れるし、取っても構わないというような恐ろしい風潮が日本人に広まってしまうことです。

二重価格でインバウンドを失う

こういう考え方に、時には外国人富裕層へのある種のルサンチマンのようなものが少々ブレンドされたりして登場するのが、インバウンドに対する二重価格というやり方です。同じサービスを受けているのに、国籍によって価格が違う。

ただ全ての二重価格が問題というわけではなく、一般的に福利厚生施設などは例外的に地元の人を優遇(低額での利用)することが許されることがあります。例えば日帰り温泉や博物館などは、地元の人は安いというのがよくありますね。

これはそもそも地元の人による地元の人のための施設ということもありますし、地元の資源を外部の者が使わせてもらうという考え方から来るものでしょうから、二重価格にも合理性があります。合理性が一つのポイントになるでしょう。

ダメなのは「外国人はカネを持っているからお値段プラス」というやり方、考え方。これだけは絶対に絶対にダメです。もう言葉を尽くしてダメと言いたい。

思い出してください。「日本人は金持ちだから、高く売りつけてもいい」、一部の外国人のそんな身勝手な論理で、我々日本人はこの何十年か、海外で散々イヤな思いをさせられてきたのではないですか? それを今度は我々がやるというのでしょうか。

かつて懐にうなる円を武器に海外へ繰り出せば、日本人専用のツアーで日本人専用の土産店に連れて行かれ、日本で買うのに比べれば安い安いと思って買った物が、実は現地価格の数倍で買わされていたことに帰国後気付き、天を仰いで「ボッタクられたー!!」と嘆いた経験のある人も多いはずです。

もっと言えば、日本は安くなったといえども冷静に見ればドル建ての所得でもまだ十分先進国の範疇(約200カ国中30位くらい)です。円安が是正されれば順位はまたかなり上昇するでしょう。

成長真っただ中とはいえ、まだまだ発展途上で平均所得も日本よりずっと低いベトナムとか、インドネシアとか、タイとか、それらの国の人たちにも二重価格を適用するつもりなのでしょうか。

長期的に将来の日本のインバウンド市場を支えていくのは、これらアジアの発展途上国(今は)の人たちが中心です。

今ここで心象を悪くすれば、もう二度と来てくれなくなりますよ。そうなれば観光産業にとどまらず、我が国にとって長期的に見て非常にマイナスであることは明白です。

日本ブームに甘えるべからず

今、世界の観光産業界隈で起きていることは、まだ新型コロナウイルス流行後の混乱収束期の範疇と言えます。こんな状態は日本にとっても初めての経験なので、ノウハウがありません。

今は世界のネット上で、「日本は全部最高!」みたいな投稿があふれかえっている状況のようです。そういう評価をもらえることは率直にうれしいですが、それで調子に乗っているといつか必ず痛いしっぺ返しを食らいます。

風向きが変わればそんなのは一瞬で吹き飛びますし、悪いうわさは良いうわさの何倍もインパクトがありますからね。

そろそろ海外のSNSに、「日本でボッタクられた」という投稿がポロポロと出始めるころではないかと個人的には非常に危惧しています。気を付けないと「日本人は礼儀正しく品格のある人たち」という評価も、一気に瓦解してしまうでしょう。

日本が本当の一流の観光国になれるかどうかが、今まさに問われているのだと思います。問われることになるのはハードではなく(ハードはまず文句なしでしょう)、まさにソフトです。

流行りの言葉を使いたいわけではありませんが、持続可能(sustainable)な観光を本気で考えるべき時に来ています。

代案の一つは、国籍ではなく価格による差別化

2024年7月現在、世界遺産・姫路城が外国人への二重価格の導入を検討しており意見が分かれています。姫路城は地元の人々が何世紀にも渡って修理維持してきたものですから、二重価格にも一定の理解が得られる可能性があります。

こういう話になると、誰もが知る海外の世界遺産の二重価格を例に挙げる人がいますが、そのような例は大概、その観光資源による収入が経済発展の頼みの綱である途上国や、あるいは財政破綻状態の国が大半だということを、まずは知っておいてください。

それゆえ、「外国人は入場料をドルで支払え」というようなところも少なからずあります。

ざっくばらんに言えば、要は先進国がやることではないのです。もっと言えば、さしたる合理性もなく二重価格で儲けようとするのは、先進国としての矜持も捨て去ることです。

そしてその姿を、我々の次の世代の子どもたちに見せることです。その長期に渡る精神的影響は計り知れないでしょう。

一つの代案は、日本人か否かではなく、価格によってサービスに差をつけること。言うなれば入場料の「松竹梅」設定です。松の人は並ばずにすぐに入れ、秘宝も見ることができる、というようなやり方が考えられます。

この方法も必ず賛否両論起こりますが、国籍で二重価格にするよりずっと公平で納得感があります。

インバウンドは増え続ける可能性がありますが、今のような“日本ブーム”によるものはそう長くは続かないと思います。その後に続くのは、リピーターも含めて本当の普通の日本の姿、日常を楽しみに来る人たち。

中国人観光客による爆買いも、半永久に続くような錯覚を持った業界関係者も多かったかと思いますが、驚くほどあっけなく終わりましたね。

新型コロナウイルス流行のせいもありますが、中国人観光客の日本旅行の楽しみ方(さらにその人たちの属性)が変わってきたからです。

日本ブームが終わっても、このインバウン丼が生き残っているか。その時こそ、その答えが出るのかもしれません。


執筆者:中原 健一郎(海外旅行ガイド)


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